社団法人 東北地域環境計画研究会事務局


公開講演会の紹介
早池峰山に生きる多様な植物たち
「岩手大学人文社会学部 助教授」 竹原 明秀
 一般に、植物の分布を決めている要因に気象条件があり、地形や人為作用も挙げられる。さらに土壌条件もあるが、普通、土壌母材料の違いによる植物や植物群落に大きな違いは見られない。しかし、石灰岩や蛇紋岩など特殊な岩石を母岩とするところには、特殊な植物や植物群落が分布していることが世界的に報告されている。

 岩手県では、北上山地を主体に特殊な岩石地帯ー石灰岩地帯と蛇紋岩地帯があり、これらの地域でしか見ることのできない植物が多数あり、植物の分布や生育を考える上で重要な地域である。特に蛇紋岩地域であり、高山という環境条件を持った早池峰山は、我が国を代表する植物の宝庫と言っても過言ではない。しかし早池峰山では、蛇紋岩由来の土壌はほとんど見られず、表層には奥羽山系由来の火山灰が厚く堆積しているなど、最近の調査研究から新たな知見が得られるようになった。改めて植物にとって早池峰山の自然環境はいかなるものかを考えてみたい。

蛇紋岩地帯の高山:そこは特殊な植物の生育地であり、全国どこでもお花畑で有名。
例: 北海道(トッタベツ岳・夕張岳・アポイ岳・キリギシ岳)、東北(早池峰山)、関東(至仏山・谷川岳)、中部(白馬岳)
蛇紋岩植物:きびしい生育環境下を生き抜いた氷河期からの遺存固有種である。
例: オゼソウ、ヒダカソウ、ユバリソウ、カトウハコベ、ハヤチネウスユキソウ、ナンブイヌナズナ、トサミズキ…など
蛇紋岩植生:厳しい環境による荒原植生である。
例: ハヤチネウスユキソウ群団=高山風衝地の低小草原
ナンブイヌナズナーカトウハコベ群団=高山の崩壊地・礫(れき)地の植物群落
早池峰山の自然環境=
(1) 早池峰構造体にある典型低な蛇紋岩地帯であり、アルカリ性、貧栄養、未熟土壌、崩壊地である。
(2) 周氷河作用を受けた地形で、凍結と融解による岩石の移動をもたらしている。
(3) 太平洋側の寡雪と冬季低温に象徴される寒冷、少雪、少雨の厳しい気候条件にある。
特産・稀少植物=
いわてレッドデータブック掲載種で取り上げられたAランク(特定稀少野生動植物)の全10種、Aランク(11種)、Bランク(13種)が早池峰の特産種である。



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