社団法人 東北地域環境計画研究会事務局


公開講演会の紹介
ネパールの酪農と乳牛事情
「ゲルトナー・グルッペ代表」 高橋 洋二
 入会しているNPO法人「ヒマラヤ保全協会」の要請でネパール人乳業技術者の日本国内での研修支援に関わって以来、ネパールとの交流が続いている。

 ネパールの耕地は約265万ヘクタールで、全国土面積の18%。山岳や丘陵地帯の斜面限界地まで段々畑を造り、既に耕作可能地の90%は畑地化されていると考えられている。作目は稲、サトウキビ、トウモロコシ、小麦、ジャガイモ、粟、大麦、大豆、葉煙草、ソバなどで、自然農法が中心である。農家1戸当たりの平均耕地は0.9ヘクタール。1戸当たりの平均家畜飼養頭数は搾乳用水牛1、使役用去勢雄牛2、子牛または雌牛1,2頭の4,5頭程度である。比較的標高の低いカトマンズ、ポカラ、タライ平原では搾乳牛は水牛が中心である。これらの地域では飲用乳とカンチャーズチーズ、バターが生産される。標高3000メートル以上のヒマラヤ地方ではヤクが飼われ、飲用乳とナチュラルチーズを生産している。

 乳製品の出荷は地形的な制約があって、概ね2時間以内で出荷できる範囲に限られ、都市周辺では自転車または肩に担いで、山岳丘陵地帯では肩に担いで搬送される。出荷量が限られていることから生乳の流通量は13.5万トンで、約90万トンの総生産量の15%にとどまっている。飼料は大麦に似た Jai といわれる草本や稲、トウモロコシ、大麦、小麦など収穫後の茎葉、米ぬか、コーンのほか、山野草、シャクナゲ、イチジク、マンゴーなど木本類の枝葉が充てられる。飼料の問題点としては乾季の飼料不足で、特に山岳丘陵地帯で著しい。不足を補うため常緑広葉樹の枝葉が供され、森林の裸地化、山地崩壊が進行している。

 ネパールの乳業界は国営と民間企業とに大別される。国営は近代的乳製品産業として50年の歴史がある。スイス、ニュージーランド、オランダ、デンマークなどの支援を受け1980年代初期まで乳製品産業を独占してきた。近年は市場の変化に対応できなくなり小規模零細が大部分である民間企業による乳製品産業への進出が奨励されている。

 生産や品質管理上の問題点は(1)官民共に品質管理面の技術者不足。特に民間企業の生産現場では、衛生に関する関心が薄く、衛生状態が極めて悪い(2)衛生管理のための機材不足、民間ではほとんど設備されていない(3)ビニール袋詰めされた市乳は、再殺菌しないと飲めない(4)品質管理に問題のある乳製品は、インド、ニュージーランド産品に圧迫されて、国内消費が伸び悩んでいる−などが挙げられる。
今後支援協力の方向としては生乳生産では(1)衛生レベルを向上させるため、ネパール国内の乳業会社の積極的参加とネパール酪農協会が農民との仲介を行う必要がある(2)日本から獣医師を派遣する(3)乾季と雨季の飼料対策を確立する。乳製品製造面では(1)経営者、従業員への食品衛生の啓発(2)衛生的な水の利用(3)機械設備の標準化−がある。店頭販売では常温販売から冷蔵販売への切り替えが望まれる。ネパール酪農協会会員への技術指導では日本での研修機会を増やすとともに、日本から派遣された指導者の受け皿となる、公的機関と共同運営できる試験研究設備を整備することが大事になる。



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