花生態学の応用的課題 |
「岩手県立博物館学芸調査員」 鈴木まほろ |
花生態学とは花の色や形、大きさ、香り、開花時期、開花時間など、花に関わる現象の仕組みを調べ、その適応的意義を探る分野である。花の持っている多様性はどのように進化してきたかを研究する分野とも言える。花の進化はいろいろあっても、花の基本構造は一つ。花粉をつくり、種子を繁殖させるということ。進化とは、より多くの種、自分らの遺伝子を残すための繁殖戦略の結果であり、動物の戦略からの移植であるとも言える。
花の多様な繁殖の方法がどのように進化してきたかを知る、ヒントとして花と昆虫の関係が挙げられる。現在の被子植物は白亜紀ごろに進化し、第3期から第4期にかけて多様化した分類群だが、昆虫の種の多様化も同じ時期に起こっている。つまりこの間に相互作用があり、被子植物の多様化に伴って昆虫も適応放散していったと考えられる。
花と昆虫の結びつきは、花を食べる昆虫、花で暮らす昆虫、花の上で交尾する昆虫、花を狩り場にする昆虫、花から餌を取り、花粉を媒介する昆虫など多様だ。ゾウ虫の一種は花の子房の中に卵を産み、幼虫は花の中で育つ。コバイケソウの上で交尾するアオジョウカイは、蜜を吸う雌に雄が交尾し、花粉を媒介する。他の個体による媒介である。花と昆虫の関係は様々な利害関係がある。花にとって花粉の媒介者はプラス、花を食う虫はマイナスである。他の個体と奪い合いになる媒介者を食う天敵はマイナス、競争相手の他の個体のみを食う虫はプラスというように、食う、食われるだけでない間接的な相互作用もある。
植物の送粉システム(ポリネーションシステム)に触れる。花粉を運んでくれるものをポリネーターといい、その重要な役目を昆虫が担っている。虫媒花の機能の多様性については、イソップ物語のツルとキツネの話にたとえられる。ツルは皿ではスープを飲めないが、壺では飲める。逆にキツネは壺では飲めないが、皿では飲めるという話だ。花の形には大きく分けて皿形と壺型があって、皿形には虫が集まりやすいが、壺型には舌の長い虫のような、特殊な構造を持つタイプしか来ない。たくさんは来ないが、当てになる客と言える。関わりのある花と虫は相互に進化してきたのだろう。
植物を保全していくためには、植物と昆虫、他の生物との関係など生態系全体の相互作用網を保護する必要がある。今後は滝沢村の春子谷地湿原をフィールドに、森林と湿地の関係や生き物の相互の関係などについて研究を進めていきたいと考えている。 |